ビクトリアは
対抗改革期のスペインで最も重要な作曲家であり、後期
ルネサンス においては最もすぐれた宗教音楽の作曲家である。ビクトリアの作品は
20世紀に復活を遂げ、近年たくさんの録音が制作されている。数多くの評者がビクトリア作品に、神秘的な烈しさと、直接に感情に訴えかけてくる特質を認めている。これらの特徴は、見方によっては、ビクトリアの偉大な同時代のイタリア人、パレストリーナの作品には見当たらない。パレストリーナ作品は、技術的には申し分ないが、情緒的には超然としているからである。
様式的に見るとビクトリア作品は、多くの同時代の作曲家と同様の凝った
対位法は遠ざけて、単純な旋律線と
ホモフォニックな
テクスチュアを好んでいるが、それでもなお多種多彩な
リズムの変化や、時に驚くほどの明暗の対比を内に秘めている。旋律の書法や
不協和音の扱いはパレストリーナよりもずっと自由である。ビクトリアは随所で、
16世紀の厳格対位法では禁則とされていた
音程、たとえば上行する
長6度音程を用いた。あるいは
モテット《聖なるマリアよ、顧みたまえ Sancta Maria, succurre》において、旋律中の嘆きを表す楽句に臨時記号のついた
減4度音程をさえ使っている。ビクトリアは時どき、通常は
マドリガーレに使われるような
音画技法も利用した。ビクトリアの宗教曲のいくつかは器楽も用いており(
16世紀スペインの宗教曲には異例の慣習)、さらには、
ヴェネツィアの
サン・マルコ大聖堂につとめる
ヴェネツィア楽派の作曲家がしたように、
分割合唱のための作品も残した。