自然葬 wikipedia|無料辞書
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自然葬 (しぜんそう)とは、従来の日本で行われていた墓石を用る葬法とは違い、遺骨を直接自然へ返したり、墓標として人工物を用いないものを指す。墓でなく、海や山などに遺体や遺灰を還すことにより、自然の大きな循環の中に回帰していこうとする葬送の方法。狭義にとらえると散骨と同義であり、広義にとらえると風葬、鳥葬、水葬、火葬、土葬、植樹葬、冷凍葬など自然に回帰するような葬り方全般を指すというとらえ方もある。
かつては、自然葬といえば遺骨を粉砕し
散骨することを指すことが多かったが、骨壷を用いず直接土中へ遺骨を埋葬する(または土に返る骨壷を使う)などといった方式でも自然へ帰ることには違いがないということで、このようなものも含めて自然葬と呼ぶようになってきている。近年日本では自然葬を望む風潮が強くなってきているが、それは自然へ帰りたいという思いが増えている他にも、核家族化や少子化によりこれまでの家系を重んじた墓の管理体制が維持できなくなってきているなどの社会的な原因もあるようだ。
自然葬の発生については、葬儀される側の自然へ帰りたいという思いをかなえるために生まれた散骨というタイプと、環境を守るため墓地に人工物をおかず里山を保護しようという理念から生まれたタイプがある。日本の
樹木葬には前者・後者どちらのものもあるが、イギリスの樹木葬は後者の色合いが強い。
「自然葬」という言葉は、市民運動団体の「葬送の自由をすすめる会」(本部・東京、安田睦彦会長)が1991年2月、発足にあたって起草した「会結成の趣旨」の中で初めて使われた。社会的な反響があり、1995年には「大辞林」第2版が、1998年には「広辞苑」第5版が収録するなど、代表的国語辞典にも載る一般的な日本語になった。
散骨や風葬、鳥葬など墓に入らない葬送法は世界の各地で行われている。日本でも古代より遺体や遺灰は海や山に還すのが主流だった。「骨を砕いて粉と為し、之を山中に散らすべし」と遺言した淳和天皇(786年―840年)や、「それがし閉眼せば、加茂川に入れてうほ(魚)にあたうべし」と言い残した浄土真宗開祖の親鸞(1173年―1262年)などの例からも、遺灰を山や川にまいていた日本人の姿が想像できる。
しかし、江戸時代中期以降、キリシタン取り締まりなどのため寺檀制度の整備が進み徐々に庶民も墓をつくるようになった。明治になってからも、自然に還す葬法は多様なかたちで存続していたが、明治政府の国家的規制や寺檀制度と見合う葬式仏教の因習とも相まって 、死んだら墓に入らなければならないという固定観念が生まれた(
[外部リンク] 墓の
[外部リンク] 近代以降のお墓で述べられているお墓の成立過程などについても参照する必要がある)。
1948年(昭和23年)にできた「墓地、埋葬等に関する法律」が「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行ってはならない」と規定し、また刑法の「遺骨遺棄罪」の規定もあって、戦後も長く散骨は一般的には違法行為と受け止められていた。
1991年10月、神奈川県の相模灘沖で「葬送の自由をすすめる会」が行った第1回自然葬は、こうした社会的な通念を破る「葬送の自由」元年の行為となった。
同会は「会結成の主旨」で「遺灰を海・山にまく散灰は、それが節度ある方法で行われるならば法律に触れることはありません」「私たちは先入感とならわしに縛られて自ら葬送の自由を失っている」と主張した。第1回の自然葬のあと、法務省は「葬送の一つとして節度をもって行われる限り、遺骨遺棄罪には当たらない」、厚生省(当時)は「墓埋法はもともと土葬を問題にしていて、遺灰を海や山にまくといった葬法は想定しておらず、対象外である。だからこの法律は自然葬を禁ずる規定ではない」と、それぞれ新聞の取材に対して、あたかも同会の考えを追認する見解を示したかのような報道がなされた(詳細については
散骨の
墓地、埋葬等に関する日本の法律との関係及び
刑法との関係を参照)。
1985年に死去した英文学者の中野好夫は生前、「できれば墓などつくらず、どこかにさっとまいて、それで一切終わりということにしてもらえば」と周囲にもらしていた。1987年に俳優の石原裕次郎が亡くなったとき、作家の兄、石原慎太郎は「遺灰を好きな海に返してやりたい」といった。そのときは、周囲の反対で願いはいずれも実らなかったが、1990年には、ライシャワー元駐日米国大使の遺灰が遺言にしたがって太平洋にまかれたことが話題になった。世界的には、インドのネール首相、中国の周恩来首相、フランスの俳優ジャン・ギャバンらの著名人の遺灰も海や林野にまかれ、外国では遺灰を自然に還すことは自由に行われていた(
散骨の
散骨をめぐる問題を参照。全「外国」で是認されている訳ではなく、各々の国と地域における実情を個別に確認することが求められる)。
「葬送の自由をすすめる会」は、その後、全国に12支部、会員1万2千人の組織になり、15年後の2006年8月現在で、北海道から沖縄まで、海や山などで1137回の自然葬を行い、1945人を自然に還している。ただし、1998年以降は毎年100回前後、200名弱の推移にとどまっていることから、後述の「社会的な合意の輪を広げ」という点では疑問が残る(
「生活と環境」/?日本環境衛生センター/2007年3月号)。
運動がすすむにつれ、「葬送の自由」という考え方も、「自然葬」も社会的な合意の輪を広げ、日本消費者協会の葬儀に関するアンケート調査(2003年9月)では、自然葬について「できれば自分はそうしたい」が10.1%、「故人の希望ならそうする」が26.9%、「法律的に問題なければそうしたい」が7.8%、「一部の遺灰なら」が11%で、55.8%が肯定的な回答をし、「自分は墓地に葬ってほしい」の25.2%を大きく上回っている(ただし、ここで調査の対象になったのは、「(調査当時)過去3年間の間に葬儀の経験のあった335名」と極めて限定されたものであることや、自然葬に関する質問についてもかなり「誘導的」な設定〜「故人が生前に希望しており、身内からの反対もなく、法的に問題がないとするなら」というような説明が付記された上でなされたものであることに留意を要する。
ただ、葬儀業界も各地で取り組むようになったことは事実であり、多数の業者が参入していることから類推すると、行われている実数は、それらを累計すると、かなりな数になっているとみられるという意見もある。
自然葬を望む根っこには、日本人が本来もってきた自然との一体感、死後は自然の大きな循環のなかに還るという死生一如の死生観がある。しかし、散骨が現代に自然葬として復活した背景には、次のような社会状況の急激な変化がある。
ひとつは、カネばかりかかり心のこもらない旧い葬送習俗、つまり葬式仏教とか金ぴか葬儀への批判、第2は日本社会の都市化、核家族化、少子化、高齢化への急展開などで墓の継承ができなくなってきたこと、第3には火葬率が99パーセントを超して衛生上の問題がなくなり、葬送の方法が多様化していること、第4には環境対策として墓地造成に伴う自然破壊に批判が強まっていること、などがあげられている。「葬送の自由をすすめる会」は、自然葬について次のように言う。
「自然葬は、故人の遺志とそれを尊重する遺族の意思によって、つまり自己決定によって海、山などの自然の大きな循環の中に遺体、遺灰を還す葬法である。万葉の昔からの伝統的葬法を現代に復活させるとともに、墓地造成による環境破壊を防ぐ葬法である」
しかし、この言説は、会の名称で「葬送の自由」を謳いながら、既存の慣習である墓を求めることを「墓地造成による環境破壊」として排斥している矛盾が残る。
事実、
[外部リンク] 葬送の自由をすすめる会は、その設立趣意書の中で「お墓を建てる自由をさまたげるものではありません」としていた。旧公式サイトでは、この「設立趣意書」は残されていたが、現在の彼らの活動や趣旨とは齟齬をきたすと考えられたためか、2008年4月にリニューアルされた“公式”サイトでは、この「設立趣意書」は消されてしまっている。
さらに加えるなら、「海、山などの自然の大きな循環の中に遺体、遺灰を還す葬法」「万葉の昔からの伝統的葬法を現代に復活させる」のであれば、何故、土葬を行わないのか、行おうとしないのかという疑問を覚えさせるものとなっている。
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